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第252回
若い国ニュージーランドでリハビリの道を選んだ!
まず食べて、動くのである

2014年3月15日号

 散々迷った。2月17日、がん研究センターで診察を受けた。頭頸科、放射線科、そして栄養士のチェックもあった。病院の判断は「がんは死んだ」であった。手術も放射線も成功した訳である。あとは体力の回復と気力だと言われた。体力は無に近い。人前では(特に病院では)元気に振舞っていたが、本当は100歩あるくのがやっとであった。何しろこの2ヵ月、固形物は全く食べていない。水と、女房のつくる野菜ジュースとスープ類だけである。体重は手術前の72キロから、15キロ落ちて57キロしかない。この数字は早大の3年生の時と全く同じであるが、今のそれは筋肉がなく、骨と皮だけになっている。

 特に大腿四頭筋の衰えは無残で、階段を5段登るのがやっとである。昔ストレッチを始めた時、トレーナーに言われた事を思い出した。「いいですか。この筋肉は二足歩行の人間にだけあるものです。だから使わないと、すぐに衰えます。あのカール・ルイス(懐しいねぇ!!)を1週間ベッドに縛りつけておいたら、ボクでも100メートルで勝てますよ!」。そんなものかと思い、それ以降、このももの筋肉は、つとめて鍛えて来たつもりである。それがたった2ヵ月で、こんなになってしまった。

 家に帰って、ベッドとソファと書斎の椅子の間を行ったり来たりして、暮らすのは楽だ。女房の心づくしの柔らかいものを喰べ、志ん生や志ん朝のCDやジャズのCDを聞き、昔の「HOWマッチ」や「クイズダービー」「11PM」などのDVDを見ていれば良いのだ。しかしこのままでは、現状維持しかない。あと1ヵ月で80歳、「お前は本当の老人になりたいか?」と問いかけた。「もう一度グランドシニアやエージシュートをしたくないか?」。ボクは辛い方を選ぶことにした。

 女房はあまり乗り気でなかった。何よりも11時間という長時間飛行を心配した。しかも急に決めたので、クライストチャーチ経由(プラス3時間)しか取れなかった。それでも全日空とニュージーランド航空は、各空港で車椅子を用意して、実によくしてくれた。ボクは真夏のニュージーランドでのリハビリ生活を選んだのである。翌日の午後、オークランド空港は薄曇り、気温は24度であった。

 到着から5日が経った。とに角まず食べること。味覚を失った状態では至難の業だが、「食べる=動く」はニワトリとタマゴである。まず食べて、それから動くことに決めた。とに角出来るだけ固形物を食べる。めん類が食べ易いから、これを中心に、ご飯ものも手を出す。肉も野菜も食べられるだけ口に入れる。コツはゆっくり食べること。早いと誤嚥したり、小さい胃がすぐに一杯になる。そうしていたら昨日、魚のフライにかけたレモンを酸っぱく感じた。もしかしたら味覚が……。

  NZの人口が新聞に載っていた。年度末だからであろう。2012年の国勢調査の数字である。総人口は約447万人とある。ボクが30年前に初めて訪れた時、この国の人口は約300万人と聞いた。30年で50%の増加は、いかにも若い国という感じである。人口分布はあまり変らず、ヨーロッパ系、いわゆる白人が74%と大半を占める。つづいて先住民族のマオリが14・9%だが、第3位のアジア系が増えた。11・8%とマオリに迫る勢いである。太平洋の島国から来た人が7・4%となっている。これからもっとマルチ・カルチャーの国になりそうだ。

 次に年齢別だが、ここはうらやましいの一語につきる。まず0~14歳の子供の人口が、19・93%と約2割も居る。日本は13・15%しか居ない。一人の女性が一生に子供を産む率を考えると、どんどん離されそうだ。つづいて15~39歳の青壮年層は33・7%で、日本の約30%を凌いでいる。これも日本は漸減するに違いない。NZは元来英国系の格差社会だが、若い労働力を移民で支えている利点がある。

 いわゆる中年層である40~64歳は32・2%居て、日本の33・9%に及ばない。しかし15~64歳の労働力人口全体から見ると、日本の63・8%より2%も高い。近年の傾向を考えると、健全な人口分布といえよう。そして大問題の老年層に入る。NZの65歳以上は、14・2%しか居ないのに対して、日本は23%の老人国である。しかもいわゆる「後期高齢者」の75歳以上が11%と、1割を超えている。ボクを含めてこの世代は生産性がなく、医療費を筆頭に、社会保障費のかさむ厄介な世代である。しかし今日の日本の経済を築いたのはわれわれだ。われわれも声を出そう。

 ボクは2000年に「巨泉―人生の選択」(講談社刊)を出して、セミリタイアのすすめを説いた。「1に健康(ああ健康!)、2にパートナー、3が趣味で、4が財政」が柱だった。世の中の変化で、3と4が逆転しているが、少くとも趣味や現役時代のコネを生かして、できる事はやろう。アベノミクスなどに惑わされてはならぬ。本誌などに「いくら儲った人」とか「どの株で儲ける」とか出ているが、あんなものは無視。

 政府は財界―大企業のほうを見ていてわれわれの事は考えない。街にはシャッターが降り、地方はどんどん過疎化している。休耕田も多い。こうしたものを安く、或いは無料で利用できるようにして欲しい。街にもっと緑地をつくろう。人口の少ないここNZでは、町中が緑地(リザーブと呼ばれる空地で、災害の時の避難地にもなる)である。景気回復やインフレやバブルは忘れよう。スケールダウンしてつつましく暮そうよ。今度の調査でキィウィ(NZ国民)の69%が、過去1ヵ月「淋しいと感じなかった」って。うらやましい、ね。

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