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第273回
ロボットによる咽頭がん手術 がカナダの病院で成功した!
日本でも一日も早い開発を

2014年9月06日号

 人生にはタイミングというものがある。これはある時は、生死を分けるという程大きい。飛行機事故などで多くの人が亡くなると、必らずと言って良い程、その機に乗る予定だったが、乗り遅れてしまったなどという人が出てくる。これはもう運というより他ないが、こと医学の進歩という事に係わると、何か運だけでは片づけられないものを感じる。

 ボクの二度目の癌「中咽頭がん」にしても、もしこれが5年以上前に発生していたら、今のようにカナダでリハビリなんて言ってられなかったかも知れない。複数の医師に聞いたが、ボクが受けたIMRT(強度変調放射線治療)は、2006年に「先進医療」に認定されたばかりだそうだ。それ以前は放射線治療と言っても、患部全体に照射していたようで、ある医師によれば「火炎放射器」状態だったらしい。癌も死ぬかわりに、周りの正常な細胞も痛めつけられる訳で、現在のボクの数倍の副作用が発生したと想像できる。

 ボクの他の経験では、黄斑変性症がある。現在はアバスチンという薬を直接眼に注射するという療法が発明され、比較的簡単に治療が可能だ。しかしそれ以前は大変な手術しか方法がなく、患者は失明覚悟で病院に行ったらしい。今回の中咽頭がんについても、手術は難度が高いらしく、それを避けられたボクは、幸運だったと思っている。

 国立がん研究センターの松本文彦医師は、転移していたリンパ節の癌(7ヵ所あった)は手術で取り去る。扁桃腺に出来ていた本体の癌は、IMRTで治療すると、二通りに分けた。その時の説明で解ったのだが、リンパ節は耳の下を切開して廓清できる。しかし扁桃腺にできた癌を取るとなると大変だという。肺だの胃だの腸だのの場合、開腹すれば外科手術はどこまでも可能だ。最近では周りに穴を開けてする、腹腔鏡手術も開発されている。

 しかし咽頭の場合―そう外科医の手も入らない程狭いのだ。つまり手術するためには、想像以上に顔や首を切り開かねばならない。「顔が変ってしまう」とか、「手足の皮膚や筋肉、神経などを移植する」といわれ、その理由が解るまで、かなりの時間を要した。とに角非常に狭く、しかも脊椎や、気管や声帯など、むずかしく危険なものがつまっている場所なのだ。ボクは今後の「生活の質」を考え、松本医師に同意したのだが、その後手術を受けた友人に会って話を聞き、つくづくラッキーだと感謝したものである。

 ところがカナダに来て2ヵ月がたった頃、バンクーバー・サン紙にとんでもない記事が載っているではないか。曰く「ロボットが扁桃腺の腫瘍を除去した」。ボクは夢中で読んだが、以下のような内容であった。

 アメリカではすでに2000年代から行われていたが、成功率は高いと言えず下火になっていた。それを今回、カナダのエイタン・プリスマン医師が、バンクーバー総合病院で執刀、7時間の手術の末見事に成功した。

 読んでみると、今まで医師の手が入らなかった口中だが、ロボットの腕は細かい関節があるので、医師はその関節を使って口内の手術を行ったという。これは医師により良い3Dの視界を与えると書いてあった。患者のザポロゼッツ氏は順調に回復中、抗がん剤も放射線も受けていないので副作用もなく、回復は早いだろうという。

 では何故アメリカで行われなくなったロボット手術がカムバックしたかというと、過去5年間の技術の進歩だそうだ。プリスマン医師は研究グループのリーダーとして、ロボット手術と抗がん剤、放射線との比較実験に、この5年間取り組んで来たという。今回の成功で主流はロボット手術になるだろうが、欠点もある。それは値段が高いことと、準備に時間がかかることだと記事はしめていた。

 ボクはうらやましかった。今でも毎日、口の渇きや痰の切れの悪さ、嚥下力の低下による飲食の不自由に悩まされている。これがなかったらどんなに楽か。ボクは早速松本先生にメールで訴えた。先生はすぐに返事を下さった。ロボット手術は欧米では広まっていて、特に中咽頭がんが対象になる事が多い。日本でも導入の動きはあるが、保険や認可の問題で、欧米に大きく遅れ、実際に使えるようになるメドは立っていない、とあった。そして最後に「ロボット手術はわれわれ頭頸科の医師にとって、知識としては一般的になっています。実践できるかどうかは、今後の動向次第です」。

 何か先生の口惜しそうな顔が見えるようであった。本誌の8月9日号に「がん『最新治療』が受けられる病院」という特集があり、ボクも早速切り取って保存したが、調べてみると、今のところロボット手術は、前立腺がんに限られているようだ。極く最近は胃がんにも適用されたらしいが、中咽頭がん手術が行われたという例は、残念ながら知ることは出来なかった。記事には、自由診療のため(前立腺のみ保険適用可)、胃がんだと200万~300万円はかかるとあった。

 今回は間に合わなかったが、ボクの信念は変らない。「長生きして、医学・医術の進歩を待つ」のである。ただ保険はとも角、認可だけは与えて欲しいと思う。手先の器用な日本人は、昔から手術が得意であった。また「ダ・ヴィンチ」など医療用ロボットの開発も喧伝されている。これだけ役者が揃っているのだから、門戸を開くべきではないか。たしかに咽頭がんは、胃がんや乳がんに比べると数は少ない。全がんの1%だと聞いた。しかし患者の受ける苦しみは上位をはずすまい。何とか研究を軌道に乗せて欲しい

今週の遺言

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